「後味が悪い邦画10選」でご紹介した「母性」について、あらすじをラストまで追いながら、伏線と結末の意味を掘り下げます。
母と娘、二人の語る「真実」はなぜここまで食い違うのか。そして、ラストの「私はどっちかな?」という一言が意味していたこととは。
※この記事は、結末までのネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。
(予告編:ワーナー・ブラザース公式サイト)
「母性」作品情報
| 公開年 | 2022年 |
| 上映時間 | 115分 |
| 監督 | 廣木隆一 |
| 脚本 | 堀泉杏 |
| 原作 | 湊かなえ |
| エンディングテーマ | JUJU「花」 |
| 出演者 | 戸田恵梨香、永野芽郁、三浦誠己、中村ゆり、山下リオ、落井実結子、高畑淳子、大地真央 |
| 映倫区分 | PG12 |
「母性」あらすじ(ネタバレなし)
教師の清佳は、ある女子高生の自殺と、「愛能う(あたう)限り大切に育ててきた娘が」という母親のコメントを新聞で目にする。
物語は、告解室で同じ言葉を口にする母・ルミ子と、その娘・清佳、二人の回想を交互に辿っていく。
同じ日々を過ごしてきたはずなのに、母が語る愛と、娘が受け取っていたものは、少しずつ食い違っていく。
そして、祖母を失った台風の夜のことも。
食い違ったまま時が過ぎ、残酷な形でそれは明らかになる…。
「母性」あらすじ(結末までのネタバレ)
「愛能う限り」
ある日、女子高生が庭で首吊り自殺をしているのを母親が発見し、通報する。
新聞には事件とともに「愛能う限り大切に育ててきた娘が自殺するなんて考えられない」との母親のコメントが掲載される。
教師の中谷清佳(永野芽郁)の学校でもこの噂で持ちきりだった。
事件は他殺と自殺の両方で調べられているということで、母親との不仲説も噂されていた。
「愛能う限り」という言葉をつぶやいて、廊下に出た清佳の前に桜の花びらがひとひら落ちてきて、それを拾い上げて外を見る清佳。
(告解室)
場面は変わり、教会の告解室で懺悔している田所ルミ子(戸田恵梨香)は、「私は愛能う限り、娘を大切に愛してきました」と言い、神父(吹越満)は、「愛能う限り、つまり、できる限りの愛という意味ですね?」と問い返す。
そして神父は「あなたの言うできる限りの愛というのは、なんだとお思いですか?溢れ出す感情のままに話してみてください」と語り、ルミ子は過去の思い出を語り始める。
ルミ子の回想:母と娘だった頃
ルミ子は、24歳の時に市民文化センターの絵画教室で田所哲史(三浦誠己)と知り合ったが、ルミ子は暗い、という理由で哲史の絵が嫌いだった。
お嬢様育ちのルミ子と上品な母の露木華恵(大地真央)はとても仲が良く、部屋には2人の写真が飾られていた。
ある日、ルミ子は自分が描いた赤いバラの絵が選ばれて、喫茶店に展示されたことを華恵に話す。
「すごい」と喜ぶ華恵に、ルミ子は絵画教室の友人の佐々木仁美(中村ゆり)から、ルミ子の絵を観ると「とても愛されて育ってきたことがよくわかる」と言われたと話す。
華恵は「あなたの絵に愛が溢れているのだとしたら、それは私やお父さんがあなたに愛を注いできたからというだけではなく、あなたがその愛をまっすぐに受け止めてくれたからだと思うわ」と話す。
ルミ子と共に絵を観に行った華恵は、ルミ子の意に反して哲史の描いたバラの絵を観て褒めちぎる。
それまで母と自分が同じものを観て違う思いを抱いたことがなかったルミ子は、ショックを受ける。
母に喜んでもらいたくて、絵を譲ってくれるように哲史に申し出たルミ子は、母が褒めていた言葉とは別に、自分が惹かれたかのように言葉を取り繕った。
ルミ子が哲史の絵を母にプレゼントすると、絵と一緒にリルケの詩集が同梱されていた。
結婚、そして出産
母が気に入った絵を描く哲史に興味を持ったルミ子は、哲史とデートを重ねるようになり、ついにルミ子は哲史からプロポーズされ、お互いの親と会うことになった。
ルミ子が哲史との結婚の話をすると、哲史と幼馴染だった仁美から「あなたは哲史のことを知らない」と反対される。
上品な母・華恵とは違って粗暴な哲史の母(高畑淳子)は、ルミ子の挨拶を無視し、持っていった土産も礼も言わず仏壇に供えた。
気に入られていないみたい、と落ちこむルミ子に「気にしなくていい」と哲史は言う。
哲史のことを、華恵は「湖のような人。情熱を深い底に沈めているんじゃないかしら」と独特な表現で評する。
自信をなくしたルミ子だったが、華恵から言葉を尽くして元気づけられ、哲史と結婚をすることを決意する。
花に囲まれた林の中の新居で2人は暮らし始める。
毎朝、ルミ子は朝食と弁当を作り、哲史を笑顔で送り出した。
しかし、ルミ子に対して無関心な哲史は、作った料理に対して「美味しい」とも言わず、髪型を変えても新しい服を着ても全く褒めることはなかったが、それでも母に褒められることでルミ子の心は満たされていた。
そんなある日、ルミ子は妊娠するが、「自分の中に違う生き物が存在する」ことが耐え難く、辛くなったルミ子は母に励まされ、子どもを産む覚悟を決める。
子どもが生まれた日、分娩室には夫しか入ってはいけない、というルールを特別に許可してもらった母がルミ子に会いに来た。
哲史は、生まれたばかりのわが子を少し抱いてすぐに華恵に渡す。
分娩室で、ルミ子の子を抱いてルミ子に喜びを伝える華恵を後ろで黙って見ている哲史だった。
台風の夜
ルミ子の愛情に包まれて、清佳(さやか・落井実結子)と名付けられた娘は優しく明るく育っていた。
「孫が自慢だ」と義母に褒められたルミ子は、期待に応えれば冷たかった義母にも愛してもらえると実感する。
ある日、母が縫った小鳥の刺繍を喜んだ清佳は「今度はキティちゃんがいい」と言う。
それを聞いて華恵の刺繍を否定されたように思ったルミ子は、「小鳥にしなさい」と清佳に命じる。
しかし、清佳が喜ぶ顔を見たいと思った華恵は、小鳥の刺繍のバッグと一緒にキティちゃんの筆箱をプレゼントするが、ルミ子はそれを見て不機嫌になる。
そんな中、ある台風の夜、停電して怖がる清佳は華恵と一緒に寝ると言い出す。
夜中、雷が落ちて折れた木が窓ガラスを突き破り、清佳と華恵は箪笥の下敷きになる。
「ママ助けて」と叫ぶ清佳を無視してドアの隙間から「お母さん大丈夫?」と声を掛け続けるルミ子に、華恵は「私はいいからこの子を助けて」と言う。
倒れたロウソクから出火して火事になるが、華恵の手を握り「お母さんは私の一番大切な人なのよ」と呼び続けるルミ子に「あなたはもう子どもじゃないの、母親なの!」と一喝して手を振り解く華恵。
その後、ようやく清佳を助け出したルミ子は、母を置き去りにした家が燃えていくのを呆然と見ていた。
清佳の回想:同じ日々の裏側
一番古い記憶は5歳ごろ、林の中の大きな木に守られた家で、清佳は美しい(と思う)両親に育てられた。
毎朝、グレーの作業服を着て鉄工所に出掛けていく父・哲史を母・ルミ子と2人で送り出した。
祖母・華恵が来た時は「おばあさまが喜ぶようなことを言ってあげるのよ」と母に言い聞かせられたが、自分が話す前に母が全部先に答えてしまい、清佳は黙ってうなづくだけだった。
祖母からは無償の愛を注がれていたが、母から注がれていたのは…。
父は夕方になると油まみれになって帰ってきて、風呂に入ってからシャツとズボン姿で黙って夕食を食べると、テレビの前に横になり、競馬新聞を読んでいた。
幼稚園の祖父母会では、他の子は祖父母が来ても知らん顔をしていたが、自分は自ら祖母を迎えに行った、などと、夜、鏡台に向かう母に1日の出来事を話すのが習慣だった。
両親と買い物へ行く時は、真ん中で手を繋いでいた清佳だったが、祖母と行く時は真ん中は母だった。
自分はいつも周囲の大人の顔色を窺うような子どもだった。
母にとっては、自分は母の描く絵の小道具の一つに過ぎなかったが、それでも十分だと思っていた。
しかしある日、祖母が縫った小鳥の刺繍を喜んだ清佳が「今度はキティちゃんがいい」と言うと、途端に母は不機嫌になり、小鳥の刺繍にしなさいと命じ、清佳の反論を許さなかった。
清佳は既製品のキティちゃんではなく、祖母に世界でたった一つのキティちゃんの刺繍をしてもらいたい、と思っていたのだが、母は誤解したようだった。
その夜、台風が来て祖母と一緒に寝ていた清佳は祖母と2人、箪笥の下敷きになる。
母が祖母を必死で救助しようとしていたことを感じ、焦げ臭い匂いに火事だ、と思ったが、意識が遠のいていく中で「母」とか「娘」という言葉が飛び交っていたことだけ記憶していた。
その後、火事のあった夜のことは、両親から語られることはなかった。
義母の家での日々
大人になった清佳は、居酒屋で「母性とは何か」という問いを同僚の富田(淵上泰史)に聞いている。
隣の客が焼き鳥の串入れに串を入れないことを注意して、「真面目だな」と言う富田に、「自分は愛されるためには正しいことをしなければならないと子どもの頃からずっと思ってきた」と話す。
「愛されてなくて体裁を整えられていただけなのか?」と聞く富田に「私はフリルのついたドレスも新しい靴もいらなかった。ただ、母に優しく触ってもらいたかった」と言う。
(華恵が亡くなって12年後)
哲史の実家の離れで暮らすようになったルミ子たちだったが、ルミ子は農業を手伝う傍ら、義母、哲史、清佳、大学卒業後、実家に帰ってきた哲史の妹・律子(山下リオ)たちのために毎日食事を作っていたが、義母からは常に文句を言われ、一緒に食卓を囲むことさえ許されなかった。
風呂の湯の使い方を注意されたり、熱があっても休むことも許されず、疲弊していったルミ子だったが、季節外れの桜が咲いたことで、母に励まされているように感じ、義母に尽くした。
ある日、いつものように文句を言い続ける義母に清佳が言い返し、怒った義母がルミ子たちに出ていけ、と言う。
しかし、ルミ子の怒りの矛先はルミ子を庇った清佳に向かう。
翌朝、ルミ子を手伝おうとする清佳を拒否し、義母を敬うように言うルミ子。
手が生温かくて気持ち悪いとまでルミ子に言われ、泣きながら手をゴシゴシ洗う清佳。
年の近い律子と清佳は親しくなるが、ここは他人の家だから、お風呂場と台所と居間以外は入らないよう、ルミ子から言い渡される清佳。
そんな中、教室でいじめられている同級生の真子を庇って話しかける清佳は、真子から「あんたが一番失礼なんだよ、鬱陶しい」と拒絶される。
同級生の享から「遊びがない」と言われたことで落ち込む清佳だったが、家に帰って真子を助けたことをルミ子に話すと「おばあさまが生きていたらきっと喜んでくれた」と褒められる。
露わになる過去
翌日、仕事を辞めたという律子に「手がボロボロになって可哀想だと思ったから、私も辞めさせたかったんだ」と同情する義母は、手がボロボロに荒れているルミ子に「律子のご飯が出てない」と怒鳴る。
その夜、恋人の黒岩克利(深水元基)の車に乗って出かけた律子は、翌朝帰ってくると、ルミ子に黒岩の父親の借金を返すために100万円必要だから貸して欲しい、と頼み込む。
律子が黒岩に騙されていると知った義母や哲史は、律子が出かけないよう清佳に見張らせるが、律子に同情した清佳は律子を逃してしまう。
律子がいなくなり、義母は寝込んでしまう。
毎日食事も摂らず泣いている義母を見て罪悪感を感じた清佳は、律子の行方を示す手がかりを探して母屋に忍び込み、偶然父・哲史の日記を見つけてしまう。
日記には、学生運動のことなどが書かれていたが、特に他に気になることもなかった。
ある日、義母から「本当は哲史は仁美ちゃんと結婚してほしかった。(ルミ子は)所詮お嬢さんのおままごとだ」と言われ、気分を害する清佳。
義母を「老人ホームに入れたら」と話す清佳を「なんて事言うの!」と叱るルミ子。
翌日、バスに乗ろうとしていた清佳は、哲史を見つけて後をつける。
すると哲史は、今は仁美が暮らす亡くなった華恵の家に「ただいま」と言って入っていく。
家にそっと入った清佳は、夫婦のように会話を交わしている哲史と仁美を見て驚く。
2人を罵る清佳だったが、仁美から「ベッタリと寄り添っていた祖母が最後に選んだのがルミ子ではなく清佳だったことで、ルミ子は割り切れない思いを抱いている」と言われ、いたたまれなくなった清佳は「うるさい!うるさい!」と叫んで出ていく。
ラストシーン
そして、夜遅く帰ってきた清佳に優しく声をかけるルミ子に、「おばあちゃんが私を助けるために自殺したって本当なの?」と聞く清佳に腰を抜かすルミ子。
そんなルミ子に謝り続ける清佳を「愛してる」と言って近寄るルミ子。
その瞬間、ルミ子を突き飛ばして清佳は家に入ってしまう。
ルミ子の脳裏に蘇る忌まわしい火事の時の記憶。
愛する母・華恵は、箪笥の下敷きになりながら、孫の清佳を助けるために自らハサミを自分の首に突き立て、孫を助けるようルミ子に促したのだった!
その瞬間を思い出し、呆然と座っているルミ子に義母の叫び声が聞こえてきた。
なんと清佳が首を吊っていたのだ。
「清佳!」と何度も叫ぶ母の声を遠くに聞きながら意識が遠のく清佳だったが、病室で目を覚ました時にはルミ子が手を握ってそばに座っていた。
(告解室)
「たった一つ願いが叶うなら、私の愛する娘の意識が1日でも早く戻りますように、と祈りました。大切な母が命をかけて守ったその命が輝きを取り戻し、美しく咲き誇りますように」と神父に告げる。
(現在の清佳)
母性について自分の考えを富田に述べている清佳。
新聞に載っていた女子高生に「女には2種類ある、母と娘だ」と伝えたいと言う清佳。
そんな清佳は父について「自分が結婚して父とも向き合えるようになった」と話す。
居酒屋の主人と女将になった黒岩と律子に、女の子を妊娠していることを告げる清佳。
一方、すっかり認知症が進んだ義母に可愛い実の娘と思われながら甲斐甲斐しく介護するルミ子と、すっかり忘れられてしまっている哲史は、今でも哲史の実家で暮らしていた。
妊娠した、と電話で告げる清佳に礼を言って「怖がらなくていい」と伝えるルミ子。
電話を切り「私はどっちかな?」と呟き、街を歩く清佳がいた。
「母性」考察
ルミ子は「母」になれなかった
この作品を貫いているのは、ルミ子が最後まで「娘」のままだったということです。
台風の夜、彼女は迷わず母を選びました。
娘の「ママ助けて」という声より、「お母さんは私の一番大切な人なのよ」という自分の思いが勝ってしまったのです。
華恵の「あなたはもう子どもじゃないの、母親なの!」という一喝は、この物語で最も重い言葉です。
しかし、その言葉が届いた時にはもう遅く、ルミ子は母を失い、母から与えられる愛も失ってしまいました。
「愛能う限り」が意味していたもの
ルミ子は繰り返し「愛能う限り娘を愛してきた」と語ります。嘘をついているつもりはありません。
ただ、彼女の愛は常に「母に褒められる娘であるため」のものでした。
清佳に良い子でいてほしかったのも、義母に尽くし続けたのも、根っこにあるのは同じ願いです。
清佳が言った「私はフリルのついたドレスも新しい靴もいらなかった。ただ、母に優しく触ってもらいたかった」というセリフが、この2人のすれ違いのすべてを表しています。
与えられていたのは「できる限りの愛」ではなく、「できる範囲の愛」だったのかもしれません。
冒頭の女子高生のエピソードについて
冒頭で報じられる女子高生の自殺と、「愛能う限り」という母親のコメント。
映画の中では、この事件は清佳たちとの直接的な関係は明示されていません。
ただ、まったく同じ言葉が使われていることで、この母娘の関係がルミ子と清佳との関係により近いものだという感じがします。
ここに語られる「愛」という言葉は、ルミ子が信仰していたキリスト教と深く関係がある言葉のように思えます。
キリスト教における「愛」とは見返りを求めず、相手の幸福や利益を第一に考えて行動する無条件の愛(アガペー)を指します。
ここからは私個人の解釈ですが、ルミ子は信仰するキリスト教の教えに従い、母と同じように、自分が辛くても義母や夫、娘に無償の愛を捧げていると信じていたのかもしれません。
自らは信仰をしていなかった清佳でしたが、ルミ子からはその考え方を日頃からなんとなくでも感じていたからこそ、「あの子に伝えたい」という言葉は、同じ思いを持った女子高生への思いやりから出た言葉だと思いました。
「私はどっちかな?」の解釈
清佳は「女には2種類ある、母と娘だ」と言います。
自分の母は最後まで「娘」でした。では、これから娘を産む自分は「母」になれるのか。
ラストの「私はどっちかな?」は、その問いを自分に向けたものです。
重要なのは、答えが示されないことだと思います。
自分は絶対に母のようにはならない、と断言していたら、それは母の轍を踏む始まりでしょう。
自分がどちらか分からないと立ち止まれること自体が、清佳がルミ子と違う場所に立っている証なのかもしれません。
ルミ子が電話で伝えた「怖がらなくていい」という一言も、初めて母の側から差し出された言葉のように聞こえました。
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